1年後の立ち退きを約束した場合の処理について
今回は、居住用の立ち退きにおいての豆知識をご紹介します。当社もオーナー様からアパートなどを管理させていただいておりますが、例えば老朽化により建て替えをする場合には、現在のお住まいの借主さんに立ち退きをお願いするケースもございます。そんな場合も少なからずございますので、豆知識としてご紹介をさせていただきたいと思います。いつもどおりわかりやすく解説された本がありますので、その本では、1年後に立ち退いてもらいたい貸家の更新契約はどのようにしたら良いでしょうか。借主も1年後の立ち退きに納得しています。
結論としては、1年間の契約期間による定期借家契約に変更するか、もしくは、現在の借家契約を合意解除して、明渡猶予期間を1年間と定めるかの2つの方法が考えられます。実務では、今回の更新において、期間1年の普通の更新契約書を作成し、特約として「1年後の更新はしないものとする。」という定めをする方もいます。しかし、借地借家法は建物の借家契約は正当事由のある更新拒絶通知がなされない限り更新する旨定めるとともに、上記に反して「1年後の更新はしない」という借家人に不利益な内容を定めた特約は無効になるとしています(借地借家法26条1項、同法30条)。「1年後の更新はしない」という更新を否定する旨の特約は正当事由のある更新拒絶通知がなされなくとも契約が終了することになり、借家人に不利益な内容になりますので、このような特約は無効になります(同法30条)。したがって、このような特約を結んでも、借主の気持ちが変わって立退きを拒絶した場合、「1年後の更新はしないものとする。」という特約は法律上は無効になりますので、貸主は、法的に立退きを請求することができなくなります。貸主としては、1年後の期間満了時に更新拒絶をする法的手段は残されていますが、更新拒絶には、正当事由が必要であり、通常、正当事由は認めてもらえませんので、結局貸主は法律上明渡しを求めることができません。したがって、「1年後の更新はしないものとする。」との特約では、法律上の明渡請求権が確保できていませんので、借家人が1年後の立退きに納得しているならば、次のような方法を採るべきです。①再契約のない定期借家契約を締結する方法。②今回普通借家契約を合意解約して1年後まで立退き猶予を定める方法。
普通借家契約から定期借家契約に切り替える場合には、以下の制限があります。
(1)店舗・事務所・工場など「居住用」以外の普通借家契約であれば、借主が同意すれば、普通借家契約を定期借家契約へ変更すること(切替え)は可能です。
(2)しかし、「居住用」の普通借家契約のうち、定期借家制度施工前(平成12年2月28日まで)に締結された借家契約については、借主の同意を得ても定期借家契約に変更すること(切替え)はできません。
①借地借家法は、居住者の保護のため、定期借家制度が施工された平成12年3月1日より前に成立した居住用の借家契約(つまり、定期借家制度が施工されておらず、契約時に定期借家契約に契約することはあり得なった契約)を定期借家契約に切り替えることを禁じています。いわいる既得権保護の考え方からこの制限ができています。
②これに対し、定期借家制度施工後(平成12年3月1日以降)に締結された居住用の普通借家契約であれば、定期借家契約を選択した可能性もあったのだから定期借家への切り替えを認めても借主を害さないと考えられるからです。
③つまり、余り知識のない借主が、定期借家契約への切り替えに応じると不利益を受けますので、切替え自体が不可能とされたのです。なお、この取扱いは、「当分の間」とされているため、将来的に変更される可能性があります。
今回は、賃貸経営をしているオーナー様にはお役に立つ豆知識ではなかったのではないでしょうか。
桜森企画では大和市を中心に海老名市、座間市、綾瀬市などのお客様へ不動産に関わる有益な情報も随時提供しておりますので、お気軽にご相談ください。参考文献 発行:公益社団法人 神奈川県宅地建物取引業協会 相談調停委員会 執筆:顧問弁護士 立川正雄(立川・及川・野竹法律事務所)